囲碁


囲碁(いご)は、碁盤と呼ばれる盤上にそれぞれが一色を持って二色の碁石(石)を置いていき、自分の石で囲んだ領域の広さを争うゲーム。単に碁(ご)とも呼ぶ。アブストラクトゲーム、ボードゲームの一種で、ゲーム理論の言葉で言えば、二人零和有限確定完全情報ゲームである。

非常に古くから東アジアを中心に親しまれてきた遊戯で、そうした文化・歴史のなかで爛柯をはじめとした様々な別称を持つ(#囲碁の別称とその意味)。また、近年インターネットを経由して対戦するネット碁も盛んである。

碁盤 : 板の上に、直交する縦横それぞれ同じ本数の直線を引いたもの。
碁石を置くのは縦線と横線の交点である。
一般に、縦横19本ずつの19路盤が使われる。初心者向け、お好み対局向けに13路盤や9路盤もある。線は最も辺にあるものから順に第2線・・・第5線あたりまでこのように呼ぶ。また第4線の交点や中間、碁盤の中心の天元にある黒点を星と呼ぶ。

碁石 : 単に石ともいう。
黒・白の二色あり、合わせて碁盤を埋め尽くせる数(黒181、白180)だけ用意される(グリーン碁石とは、濃い緑と薄い緑の二色である。)。
碁石を入れる器を碁笥(ごけ)と言う。
盤上の碁石を数える時の単位は子(し)であり、一つを一子(いっし)、二つを二子(にし)などと表す。

ゲームの概要
囲碁の目的は、できる限り大きな地(定義の詳細は、ルールの項参照)を確保し、できる限り多くの相手の石を捕虜(ハマという)とすることである。
ゼロ和ゲームなので、上記の目的を自分は達成しやすく、相手には達成しにくいように、できるだけ効率良く石を配置することがゲームの戦略となる。

他のゲームと比較して、囲碁の著しい性質として指摘されるのが、ルールが単純で、石(将棋で言えば駒に相当)を置いて良い場所にきわめて制約が少ないことである。
このことが、着手の選択肢に大きな幅を与え、戦略的には囲碁は他に類を見ない複雑なゲームとなっている。こうした事情から、チェスなどでコンピュータプログラムが世界チャンピオンを負かしたりしているのに対して、コンピュータ囲碁ソフトがいまだに(2006年現在)きわめて弱いのも、これが原因である。

戦争と囲碁には、著しい類似性が見られる。地を領土、石を兵力に例えると分かりやすい。のみならず、戦略の自由度などからも、現実のゲームのモデルとして利用されることもあり、古くから囲碁における格言などを現実世界の意思決定に応用するような書籍なども出版されている。また、布石、捨石、定石など、数多くの囲碁用語は、日常用語としても使用される。


歴史
詳しくは囲碁の歴史を参照

囲碁の起源は中国で占星術の一法が変化・洗練されて今の形となったと言われている。三国時代の孫策とその部下が打ったとされる棋譜が現在に残されている。日本に伝わったのは奈良時代。
その頃からひろく遊ばれ正倉院には碁盤と碁石が収められている。

戦国時代には戦国武将たちに大いに好まれ、織田信長に日海(本因坊算砂)が名人の称号を許されたと言われる。

1998年、漫画『ヒカルの碁』により囲碁ブームとなる。

囲碁は日本のみならず韓国、北朝鮮、中華人民共和国、台湾などでも盛んに行われ、その他にも北米・南米、ヨーロッパなどでも競技人口が増え続けている。


ルール
(メインの記事=囲碁のルール)


着手に関するルール
黒、白の対局者が交互に自分の石を盤上の交点に着手する。
すでに石がおかれている場所以外なら原則どこへ着手しても良い。
相手の石を完全に取り囲むと、ハマとして取り上げることができる。
取られない石は、盤上に打たれた場所にありつづけ、そこから動かしてはならない。

勝敗に関するルール
自分がそのまま打ち続けたら、相手の応対によらず、いずれは取り上げることができる石の一団は死んでいる。終局後に、死んでいる石はハマに加えられる。
これ以上打っても得はないと思えば、パスすることができる。両対局者がパスをすると終局となる。
相手の石が活きることのできない自分の石の一団に囲まれた領域のことを地と呼ぶ。
地の面積とハマ(捕虜)の数の和の大小によって勝敗を争う。形勢判断などでは、この和の数値のことを地というため、例えば、黒地○○目、白地○○目などというときは、この和のことを言う。
対局中に三劫以上の多元劫、長生、循環劫が発生し双方譲らず同型反復となった場合、対局は無勝負扱いとなる。
なお、中国ルールでは、ほとんどの場合、日本ルールと勝敗判定は変わらないが、イメージは異なる。まず、捕虜は「死ぬ」。すなわち資産価値がない。その代わり、盤上に置かれた石一つ一つに価値がある。つまり、地と盤上の石の和を自分の点数とする。

序盤
通常、対局が始まるとしばらくは布石が行われる。
大体の場合は碁盤の四隅に打つ事から始まる。
なお初手を四隅に打つ場合は、慣例的に右上隅に打つ。

三々(さんさん) - 碁盤の隅から3・3の位置の事。地に対して最も堅い手であるが中央への働きが弱い。
小目(こもく) - 碁盤の隅から3・4あるいは4・3の位置の事。古来から布石の基本とされる。
星(ほし) - 碁盤の隅から4・4の位置の事。現在の布石の花形。特に初心者はこの手より始める事が多い。
目外し(もくはずし) - 碁盤の隅から3・5あるいは5・3の位置の事。相手の作戦をくじくための物として打たれることが多い。
高目(たかもく) - 碁盤の隅から4・5あるいは5・4の位置の事。
五の五(ごのご) - 碁盤の隅から5・5の事。
大高目(おおたかもく) - 碁盤の隅から4・6あるいは6・4の位置の事。
天元(てんげん) - 碁盤の中心。中心に打つため四方全ての向きからのシチョウに有利とされるが、五の五・大高目とともに未だあまり研究が成されていない。

中盤
中盤は死活の絡んだ戦いになる。互いに死活がはっきりしていない弱い石を意識しながら打ち進める。

中盤でもっとも重要な概念は、厚みと実利であろう。全局的に影響が及ぶような石の配置を厚みといい、それに対して、局所的に地になりそうなところを実際に地とみなしたときの利益を実利という。経営で言えば、厚みが長期、実利が短期である。このバランスが重要である。とりわけ厚みは、使い方、またその効果の評価が難しく、コンピュータ囲碁プログラムにとって最大の難関の一つである。

中盤は、もっとも作戦が富んだところである。基本的な構想をいくつかあげると:

相手の弱い石を攻撃して、地模様をつくるのに役立つ厚み(壁)を作る
相手の石をとる
自分の石を捨てて(捨石)、別のところで利益を得る
打ち込んで生きる
などがある。


終盤
ヨセは双方共に、死活の心配がなくなった状態の事を言い、大まかな領域線を決める大ヨセと細かい一目・二目で争う小ヨセに分かれる。プロならば小ヨセの段階で勝敗が解るのは極自然である。


基本戦略
大まかに囲っている地域(これを模様という)と最終的な地との間には大きな違いがあり、ゲームの進行と共に、景色が大きく入れ替わる。相手が囲おうとしているところに石を突入させて(打ち込み)生きてしまえば、そこは自分の地となる。相手が地だと思って囲っている壁の一部を、国境を侵害するように切り取ってしまえば、地はそれだけ減ってしまう。逆に、相手が活きると思っている石を殺してしまえば、そこは自分の地となる。相手の地やハマと自分の地やハマを交換するフリカワリという戦略もある。戦争で条約締結まで領土が確定しないのと同様に、終局するまでは、地は確定しない。最終的に相手の石が生きることができず、かつ境界が破られないような領域が地となる。

一般に、両者が最善を尽くしている状況では、相手の石の活き難さ(地になりやすさ)と模様の広さ(大きな地になる可能性の大きさ)との間にはトレードオフの関係がある。相手の活きがほぼ見込めない領域のことを確定地と呼び、これを優先する考え方を実利重視という。これに対して、将来の利得を重視する考え方が、後述する厚みである。経営における短期と長期のバランスに似て、この実利と厚みの絶妙なバランスが囲碁の戦略できわめて困難なポイントである。とりわけ、厚みの形式的表現が極めて困難なことが、コンピュータ囲碁ソフトの最大の壁であるとも言われる。

布石
初心者向けに、序盤は隅から打ちすすめるのが効率が良いと言われるが、中央のほうが相手の石が活きにくいというメリットがある。すべての局面で、バランスが重視される。


石の形
囲碁のルールは非常に単純であるがそこから派生するほぼ必然的な着手の仕方、つまり石の形を理解することである程度の棋力を得ることができる。 もっとも有名なものにシチョウがある。これは「シチョウ知らずば碁を打つな」といわれるほど有名かつ重要な石の形で対局中よく現れる。これ以外でも「空き三角は愚形」「二目の頭見ずハネよ」等格言になっている石の形は多く存在する。


厚み
碁を打つ上で重要な要素として厚みという考え方がある。言い換えれば勢力のようなもので、例として三間開きの真ん中に打ち込もうとする場合、ただの三間開きに打ち込むより開きを成す一方の石が2石の連続した形(中央方向に立っている)である場合のほうが、より打ち込みは無謀と感じるだろう。これは打ち込まれた石を勢力に追い詰めることで取ることができないにしても相当いじめられることが予想されるからである。これ以外にも有効に石を連続させておくことで大模様を形成できたり盤上で不意に発生したしちょうに対し、しちょうあたりの効果を発揮するなどあらゆる可能性をもっている。


石の働き
対局中存在するこういった石の一団のなかでも特に働きのない石(それ自体で生きているわけでもなく相手の模様中に存在する)を俗に団子石と呼ぶ。 団子石は相手の地の中に放置して取り込まれる(モチコミ)のは大損なので当然連絡しなければならないが、この経過でも模様をあらされたり相手の模様の成長の手伝いになるなどかなりの負担を被る。 このため団子石の様な「弱い石」を作らないことである。


囲碁の別称とその意味
囲碁には様々な別称・雅称があるが、それらの中には中国の故事に由来するものも多い。

そのような故事由来の異称の代表である爛柯(らんか)は中国の神話・伝説を記した『述異記』の次のような話に由来する。晋の時代、木こりの王質が信安郡の石室山に入ったところ童子たちが碁を打っているのを見つけた。碁を眺めていた王質は童子から棗を貰い、飢えを感じることはなかった。しばらくして童子から言われて斧を見るとその柄(柯)が朽(爛)ちていることに気付いた。王質が山をおり村に帰ると知っている人は誰一人いなくなっていた。

この爛柯の故事は、囲碁に没入したときの時間感覚の喪失を斧の柄が腐るという非日常な事象で象徴的にあらわしている。また山中の童子などの神仙に通じる存在から、こうした時間を忘れての没入を神秘的なものとして捉えていることも窺うことができる。この例と同様に、碁を打つことを神秘的に捉えた異称として坐隠(ざいん)がある。これは碁にのめりこむ様を坐って隠者にも通じるとしたもので、手談(しゅだん)と同じく『世説新語』の「巧芸」に囲碁の別称として記されている。手談は字の通り、互いに碁を打つことを話をすることと結び付けたものである。

囲碁の用具に着目した異称として烏鷺(うろ)がある。碁石の黒白を烏と鷺に例えている。方円(ほうえん)は碁石と碁盤の形からつけられたもので、本来は「天円地方」で古代中国の世界観を示していた。のちに円形の碁石と正方形の碁盤から囲碁の別称となった。

『太平広記』巻四十「巴功人」の話も別称の由来となっている。巴功に住むある男が橘の庭園を持っていたが、あるとき霜がおりた後で橘の実を収穫した。しかし3、4斗も入りそうな甕のように大きな実が二つ残り、それらを摘んで割ってみると中には老人が二人ずつ入っていた。この老人達は橘の実の中で碁を打っていた。この話から囲碁は橘中の楽(きっちゅうのらく、―たのしみ)とも呼ばれる。

碁盤には、「天元→太陽」、「星→星」、「19路×19路=361 → 1年365日」、「四隅→春夏秋冬」など、自然界、宇宙を抽象的に意味づけている。


囲碁に由来する慣用表現
傍目八目(おかめはちもく)
そばで観戦している者の方が実際に対戦している者よりも八手先を見通す(八目得するほどの妙手を思いつく意とも)ことから、当事者よりも第三者の方がかえって物事の真実や得失がよくわかるたとえ。
一目置く(いちもくおく)
棋力に優劣のある者どうしが対戦する場合、弱い方が先に一目を置くことから、相手を自分より優れていると見なして敬意を表すること。
駄目(だめ)
自分の地にも相手の地にもならない目の意から、転じて、役に立たないこと、また、そのさま。
駄目押し(だめおし)
終局後、計算しやすいように駄目に石を置いてふさぐこと。転じて、念を入れて確かめること。また、既に勝利を得るだけの点を取っていながら、更に追加点を入れることにもいう。
八百長(やおちょう)
江戸時代末期、八百屋の長兵衛、通称八百長なる人物が、よく相撲の親方と碁を打ち、相手に勝てる腕前がありながら、常に一勝一敗になるように細工してご機嫌を取ったところから、相撲その他の競技において、あらかじめ対戦者と示し合わせておき、表面上真剣に勝負しているかのように見せかけることをいう。
布石(ふせき)
序盤、戦いが起こるまでの石の配置。転じて、将来のためにあらかじめ用意しておくこと。また、その用意。
定石(じょうせき)
布石の段階で双方が最善手を打つことでできる決まった石の配置。転じて、物事に対するお決まりのやり方。
捨石(すていし)
対局の中で、不要になった石や助けることの難しい石をあえて相手に取らせること。転じて、一部分をあえて犠牲にすることで全体としての利益を得ること。

囲碁が登場する作品
文芸
『源氏物語』「空蝉」「竹河」「手習」
川端康成『名人』
斎藤栄『黒水晶物語』『黒白の奇蹟』
竹本健治『囲碁殺人事件』他
内田康夫『本因坊殺人事件』
トレヴェニアン『シブミ』
シャン・サ『碁を打つ女』
ノ・スンイル『オールイン』
漫画
山松ゆうきち『天元坊』
倉多江美『お父さんは急がない』『続・お父さんは急がない』
ほったゆみ・小畑健『ヒカルの碁』
岡野玲子版『陰陽師』
諸星大二郎『碁娘伝』
映画
『未完の対局』佐藤純彌監督(南里征典による同名ノベライゼーションもある)
その他
アタリ
アメリカのゲーム会社。創業者が囲碁好きの為、囲碁用語から社名を取ったというエピソードは有名。詳細はアタリを参照。この後に子会社として「テンゲン」、創業者が次に作った会社に「センテ」(詳細はノーラン・ブッシュネルを参照)があった。
                               出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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